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理事長からのプレッシャーで辞めたい気持ちを抱えながら1週間頑張ったら、何か見えてきた話

著者のご紹介
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高村くるみ(ペンネーム)
1972年生まれ
97年歯科医師免許取得
医療法人理事長

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カルテ、日計書、収支帳…から見えた!

理事長から「単価を上げるように」

翌朝、出勤した私に理事長からFAXが届いていた。

高村先生へ
もっと1人当たりの単価を上げるように。
保険で親切な治療ばかりしていては赤字になります。硬質レジンばかりでは経営が成り立たないんです。

デンチャー調整を長々とやるひまがあったら新製してください。新患は来ていても補綴しなければ意味がありません。
家賃、光熱費、人件費、技工代など、治療の善し悪しに関係なく現実は待ってくれないのです。
もう少しオトナの視点に立った仕事をしてください。

言葉にできない虚無感と怒りと失望が胸を渦巻いていく。
辞めたいという気持ちを抱えながら1週間働いた。もちろん休みはない。親にも友だちにも彼にも会えない。金曜日の朝、ついに私はキレた。
「今日は行けません」とだけ電話で連絡し、午前中は死んだように眠り続けた。昼過ぎに実家の母に、「また仕事辞めてのんびりしたい」と言いに行くと、母は「好きにしなさい」とやさしく微笑んだ。

「だいたい医療で儲けようなんて所詮ムリなんだってば! 年中無休でヘトヘトになって治療したって良い結果は出ないよ。FCKの点数に、診療しない経営者の取り分は含まれてないんだもん。どうせ私はダメドクターですよーだ」。

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母からの鶴のひと声

グチり続けていると、いつもやさしい母は毅然として言った。
「詳しいことはよくわからないけど、ひとつあなたに伝えられることは、うちのご先祖さまはみんながんばったということよ。どんな世でも精いっぱい努力なさったからこそ今の私たちがあるのよ。藩主だった方は領民のために、軍人はお国のために命を懸けて戦ったのよ。あなたにもその血が受け継がれているの。時代や環境が違ってもできないはずはないわ。弱音を吐くならやるだけやってからにしなさい。あなたなら絶対できると信じています」。

あーまただ。いつもこの言葉に乗せられるのだ。受験も恋も、そして仕事も……。
「そうだ、やってみよう!点数を上げて見直されてから、文句を言って辞めればいい。このままで終わりたくない」
すぐに高速を飛ばし、医院に向かった。

ドクターによってあまりに自費率、中断率が違う!

誰もいない医局でカルテ、日計書、収支帳を、むさぼるように読んだ。分析すればするほど驚きと羞恥の念がわき上がる。それは、「ドクターによってあまりに収益が違う」という事実を突きつけられたからだった。

同じ患者数でも〝できる人〟が担当すると自費率は高く、中断率は低い。つまり、自費は運じゃない、ドクターが生み出すものなんだ。患者さんとの信頼関係によって作られる評価そのものだ! 模型でいくらMBの形成がうまくても意味なんてない。大切な大切な私の患者さんの歯を削って、初めて歯科医師の仕事として認められる。

「治療したい!」と初めて強く思った。この医院を患者さんに愛されるものにし、そして結果として収益に反映されるようにすると誓った。
朝、出勤してきたスタッフに昨日のお詫びをすると、「慣れてますから」と平然としていた。

「違うの! 私は確かにひよこだけど、今日はもう殻を破ったひよこなの。この医院を良くしたい。最善を尽くした治療をしたい。売り上げを伸ばしてみんなが休めるように休診日を作りたい。開院時間なんかじゃなくて診療内容で勝負したいのよ。そのためにはみんなの協力が必要なの。助けてください」
と、スタッフに向かって自分の今の気持ちをぶちまけた。


しばしの沈黙の後、歯科衛生士が「良かった。先生みたいな人が来るのを待っていたんですよ。立花先生が院長だった時は、忙しいけどやりがいがあって楽しかったんです。あの頃みたいにやりたいです。一緒にがんばりましょう」。
初めて見る彼女の笑顔だった。

収益が上がった! でも……

それから、昼休みの時間だけ、私は無給で立花医師の助手にしてもらった。院長のコンサル、患者さんのまわし方、カルテの書き方、すべてを吸収し尽くす覚悟でがんばり、自分の診療に取り入れた。まさに無我夢中とはこんな日々を言うのだろう。自費が徐々に増えていき、売り上げも上がった。
そんな時再び理事長からFAXが届いた。

高村先生へ
勘違いしてはいけない。良くなったとはいえ、それは普通になっただけです。まだまだ合格とは言えません。自費が出ただけで保険の赤字は解消されていません。

「私が厚生労働大臣になったら、保険点数を2倍にするか、あんたの免許を取り消してやりたい」と思った。

「歯科医師高村くるみが行く! 雨、嵐、ときどき快晴」第1章 歯科医師人生・波乱のスタート(日本歯科新聞社)より

編集部からのコメント
本書は、大学卒業後からの高村くるみ先生の波乱万丈の歯科医師人生を描いてドキュメントストーリーで、歯科経営総合情報誌『アポロニア21』において2003年1月号から2009年11月号まで掲載した「女性歯科医師NOW」「高村くるみが行く!」の内容を加筆、修正してまとめたものです。連載当時、様々な方から「毎月の楽しみ」「真っ先に読んでいる」などと大変好評でした。本書のカバーデザインを担当したデザイナーからは「面白すぎてデザインの仕事が手に付かない。徹夜で読んでしまった」などのコメントもいただいております。ははっと笑えるのはもちろん、「赤字の分院を黒字に」「横領事件の対処」「不当な解雇」「困ったドクターを雇ってしまった時」「新人ドクターの育成方法」など、訪れる苦難をいかにして乗り越えたのかという経営視点からのノウハウや解決策も掲載されており、とにかく情報量が多いです。
何年経っても色褪せない、現代でも同じ悩みを持つドクターたちの、一番身近なエッセイになるかもしれません。

書籍の紹介
「高村くるみ先生」の波乱万丈の歯科医師人生を描いたアポロニア21連載中のエッセイ(2003年1月号~2009年11月号)を、加筆、修正して61話分をまとめたもの。

第1章 医療法人の勤務医、分院長時代
第2章 老院長下の勤務医時代
第3章 そして開業

の3章に分かれており、大学卒業直後から、現在の複数の医院を持つ立場になるまでが描かれている。 目次を見るだけでも、その波乱万丈ぶりには驚かされるはず。

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日本歯科新聞社編集室
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歯科界唯一の週刊新聞を発行している新聞社。歯科経営誌「アポロニア21」やその他、書籍も多数出版しています。この執筆者の他の記事はこちら
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