コラム

ライバル医院の院長夫婦が「稼ぐ」大切さを教えてくれた話

著者のご紹介
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高村くるみ(ペンネーム)
1972年生まれ
97年歯科医師免許取得
医療法人理事長

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良い歯科医師って?

立花夫婦との出会い

へとへとになってA医院を出た私に声をかけてくれた人、それはなんとライバルとも言える、ホントに目と鼻の先にある歯科医院の院長だった。
「君はK先生の後輩でしょ。K先生はぼくが育てたんだよ。元々は、ぼくも彼もA医院で一緒に勤務してたんだ。夕方K先生から電話があって、君のフォローを頼まれたんだよ」。

あっけにとられている私に「ついておいで」と言うと、スタスタと先に歩いて行く。あわてて追いかけると新築の豪華マンションの8階の部屋に着いた。
ガチャリとドアが開くと、そこにはきれいな女性が迎えてくれていた。これが立花夫妻との出会いであった。もう終電に間に合わないと察して私を泊めてくれる準備が万端に整っていた。
立花先生はその医院に6年勤務した後、近くで歯科医師の奥さんと開業したという。おいしい料理をごちそうになりながら、「美人の奥さんと一緒に開業されてお幸せですね!」と言う私に苦笑いしながら答えてくれた。

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目から鱗の「新しい価値観」

「まず自分が歯科医師として幸せにならないと、家族を幸せになんてできないよ。じゃあ何が仕事において幸せの指標か。それはぼくの場合、〝点数〟だった。つまりお金だよ。おいしいものをいつも食べるわけにはいかなくても、いざという時にはそれなりの店に連れて行きたい。街を歩く女性が素敵な服を着ていたら、それに引けを取らないものを妻に買わせてあげられる男でいたいと思う。たまには温泉にも連れて行きたいし、安全な車に乗せてあげたいんだ。

だってぼくたちは、なに不自由ない家庭環境に育ったからこそ何千万円もの授業料を払って私立の歯科大を出してもらえて、歯科医師になれたんだよ。そのぼくがうだつが上がらなかったら、何のための多額の投資かわからないし、妻にそれなりの生活をさせてあげられないなら彼女のご両親に申し訳が立たないよ。

たしかに医療には〝赤ひげ〟のようなボランティア的な精神が求められることもあるけど、ぼくの考えは違う! どんなに正しいことを言っても、お金のないやつの言葉に耳を傾ける人はいない。〝貧しくても幸せ〟なんて言っても信じない。実際に本人はそう思っていても、世間は負け惜しみとしか思わないよ。
高村先生、いいかい。君にとって今が一番大事な時期だ。男も女も関係ないぞ。稼ぐ歯科医師にならなきゃだめだ。だって、なんだかんだ言っても、患者は良い歯医者にかかりたい。そして、我々は自分の治療に見合った治療費を請求する。ごく当たり前のことなんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

つまり、稼ぐ歯科医師が良い歯科医師なんだ。それにはもちろん技術も知識も大切だ。そしてそれ以上にハートが大切だ。いつもやさしくできないなら、やさしい演技ができれば十分だ。
例えば、部分義歯か保険適用外のブリッジとなる症例で、『入れ歯はいやだけど、お金がないから何とかしてほしい』という患者の言うことにいちいちつき合う必要なんてないんだ。

これ以上ないというやさしい笑顔でなぜ保険がきかないかを理路整然と説明してあげて、義歯を嫌がるならちゃんと自費のブリッジを丁寧に勧めてあげる。お金のことをぼくたちが心配してあげる必要はないんだ。できる範囲の努力、それが仕事なんだ。

たまに義歯の請求で自費のブリッジ入れてあげて、赤字になっても『オレはいいことした』と思ってる歯科医師もいるみたいだけど、ぼくに言わせると、偽善で自己満足のサイテー歯科医師だね」。
過激だけど本音で生きている人だ。そして説得力がある。この人みたいになれたらいいなと思った。

しかし、まだ私は開業医1年生のひよこ中のひよこだ。親のスネだってもう少しかじっていられるし。稼ぐということの本当の意味すらわかっていないに等しかった。うつむく私にとんでもない話が再び押し寄せる。

「1日の勤務じゃわからないかもしれないけど、実はあの医院は赤字なんだ。君が立て直さなくてはいけないんだ。患者はたくさん来てもその割に点数は上がらない。経費もかかり過ぎているらしい。ぼくがいた時はそんなことはなかったんだけどね。ま、がんばってやってみなよ! ぼくにできることなら助けてあげるからね」。

「イヤー、もう辞めるつもりなんです」と喉元まで出かかったが、口に出せなかった。こんなに良くしてもらったのに裏切るようなことはできない……。こうして、私の医院立て直しのための大奮闘が始まった。

「歯科医師高村くるみが行く! 雨、嵐、ときどき快晴」第1章 歯科医師人生・波乱のスタート(日本歯科新聞社)より

編集部からのコメント
本書は、大学卒業後からの高村くるみ先生の波乱万丈の歯科医師人生を描いてドキュメントストーリーで、歯科経営総合情報誌『アポロニア21』において2003年1月号から2009年11月号まで掲載した「女性歯科医師NOW」「高村くるみが行く!」の内容を加筆、修正してまとめたものです。連載当時、様々な方から「毎月の楽しみ」「真っ先に読んでいる」などと大変好評でした。本書のカバーデザインを担当したデザイナーからは「面白すぎてデザインの仕事が手に付かない。徹夜で読んでしまった」などのコメントもいただいております。ははっと笑えるのはもちろん、「赤字の分院を黒字に」「横領事件の対処」「不当な解雇」「困ったドクターを雇ってしまった時」「新人ドクターの育成方法」など、訪れる苦難をいかにして乗り越えたのかという経営視点からのノウハウや解決策も掲載されており、とにかく情報量が多いです。
何年経っても色褪せない、現代でも同じ悩みを持つドクターたちの、一番身近なエッセイになるかもしれません。

書籍の紹介
「高村くるみ先生」の波乱万丈の歯科医師人生を描いたアポロニア21連載中のエッセイ(2003年1月号~2009年11月号)を、加筆、修正して61話分をまとめたもの。

第1章 医療法人の勤務医、分院長時代
第2章 老院長下の勤務医時代
第3章 そして開業

の3章に分かれており、大学卒業直後から、現在の複数の医院を持つ立場になるまでが描かれている。 目次を見るだけでも、その波乱万丈ぶりには驚かされるはず。

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雨、嵐、ときどき快晴「歯科医師高村くるみが行く!」
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歯科界唯一の週刊新聞を発行している新聞社。歯科経営誌「アポロニア21」やその他、書籍も多数出版しています。この執筆者の他の記事はこちら
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